膜拜殿下 发表于 2012-5-19 10:04:55

4Gamer对魔法使之夜Staff的访谈实录(魔夜2部、3部确定)

TYPE-MOONの原点を辿る「魔法使いの夜」インタビュー。奈須きのこ&こやまひろかず&つくりものじ氏の3名に聞く,ノベルゲームの未来と可能性

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奈须氏:大约是全三部作。说到最后的话就会清楚地明白青子、草十郎和有珠的将来。 ……因为不想让玩家再等下去了,希望发表时第2部和第3部的空档能短一些。因为第2部会开始正式的故事。
奈须氏:关于今次花了很多时间的演出部分,因为已经找到了提升效率的方法,我想时间能够做到相当的缩短。因此应该会以能减少监督つくりものじ负担的体制来应付。
4Gamer:虽然有续编这点令人很在意,但作中到最后都没有明确提及选上青子而不是橙子作为苍崎后继者的理由对吧? 这就是作品以后的乐趣吗?
奈须氏:提示已经写出来了,我想敏锐的人应该会察觉到。青子魔术回路的构造就是提示。橙子的魔术回路虽然是业界里屈指可数,但是苍崎的第五魔法不需要那样的东西。反倒是青子的单纯性才是最适合的感觉。
4Gamer:关于第五魔法本身,似乎还隐藏着秘密呢。
奈须氏:我想大家一定都会对此很在意……不过很抱歉,要知道它还得再等一下。会牵涉到开始时也讲过的「前进的文明」这个主题……。
奈须氏:作中也婉转地提及过,有珠是中世文明的代表,而青子是消费文明的代表。青子为什么是“最新的”魔法使,它的答案也在第五之中。





以下为原文:


※インタビュー中には,本編についてのネタバレがあります。未プレイの方は,本編を終えた後に読まれる事をオススメします。
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奈須きのこ氏(シナリオ担当)こやまひろかず氏(原画・グラフィックス担当) つくりものじ氏(スクリプト・演出担当)




 2012年4月12日,自社ブランド新作としては8年ぶりとなるTYPE-MOONのノベルゲーム「魔法使いの夜」が発売された。本作は奈須きのこ氏による未発表小説をノベルゲームとして再構成したもので,「月姫」「空の境界」「Fate/stay night」といったTYPE-MOONワールドの原点となる作品である。

 本作の舞台となるのは1980年代後半の十一区。バブル景気を迎え発展していく町の中で,坂の上に住む二人の魔女――蒼崎青子と久遠寺有珠は,山奥からやってきた少年,静希草十郎と出会う。価値観も生きる世界も,すべてが異なる三人。本来交わることがないはずの彼らは,とある事件をきっかけに久遠寺邸で共同生活を始めることになり,物語は回り始める――。

 「きのこ節」を織り交ぜながらも柔らかい筆致で綴られた奈須きのこ氏のテキストに,戦闘シーンのみならず日常の重要さにもこだわり抜いたこやまひろかず氏のグラフィックス,ノベルゲームというジャンルの可能性を大きく切り拓くつくりものじ氏の圧倒的な演出を加え,まさに青春のきらめきを切り取るさまざまな挑戦が行われている本作。その一端は,TYPE-MOONの公式サイトや,無料配布されている体験版をプレイするだけでも感じ取れるはず。
 このほか,音楽にはこれまでTYPE-MOON作品の音楽を数多くてがけてきたKATE氏に加えて作曲家の深澤秀行氏が参加,ED曲である「星が瞬くこんな夜に」をsupercellが担当している。

 本インタビューでは,この豪華メンバーによって作られた本作の魅力を,さらに深く知るために,シナリオの奈須きのこ氏,原画のこやまひろかず氏,スクリプトのつくりものじ氏にお話を伺っている。
 「魔法使いの夜」における世界観やグラフィックス,キャラクターへの愛情,演出における徹底したこだわりを知ることで,また新たな風景が見えてくるはず。“最新の魔法使い”の産みの親達が,一体どのような思いで本作を作り上げたのか。これまで語られることのなかった“魔法”の秘密が,今,明かされる。

「魔法使いの夜」が目指した世界と空気
4Gamer:
 発売されたばかりの「魔法使いの夜」(以下,まほよ),さっそくプレイさせていただきました。今日はその魅力についてお話しを伺っていきたいと思うのですが,あらためて本作がどんなタイトルなのか,というところからお聞きしたいと思います。まず……原作小説があるんですよね。

奈須きのこ氏(以下,奈須氏):
 そうですね。ずいぶん昔に書いた小説が元になっています。といっても少部数の同人誌なので,本の形では世の中に3冊しか存在してないですけど。

4Gamer:
 小説版は「月姫」「空の境界」「Fate/stay night」(以下,Fate) など,後の奈須きのこワールドの原点となった作品だとお聞きしています。「月姫」の主人公である遠野志貴にとっての「先生」であり,最強の“魔法使い”の一人でもある蒼崎青子の活躍を描いたものということで,ファンとっては注目の作品です。
奈須氏:
 青子とは長い付き合いになりました。昔からブレない娘です(笑)。リメイクとはいっても自分の中ではずっと変わっていないキャラクターなので,それを引っ張り出してきただけなんですけど。

4Gamer:
 では今回ノベルゲームとしてリメイクするにあたっては,シナリオ面での苦労はあまりなかったですか?

奈須氏:
 初めの選択肢としては,元の小説どおりに1980年代を舞台とするか,あるいは2010年の物語として置き換えるかで,迷いはありました。制作を開始して,こやまひろかずの絵と深澤秀行さんの音楽,そしてつくりものじの演出といった素材が集まってきた段階で,これは時代に左右されないものとして完成させられる,という確信が持てました。

4Gamer:
 プレイした感想としては,何よりもまず,ものすごく美しい作品だという印象でした。イギリスの伝承童謡であるマザーグースからの引用や,BGMにリストの「愛の夢」やエリック・サティの「ジムノペディ」といったクラシック曲が採用されていることもあって,月姫の遠野家ルートや,空の境界の日常などに近い,とても静かな雰囲気になっていますよね。逆にFateのような作品とは,着地点が異なっているように感じました。

奈須氏:
 おっしゃるように,穏やかで美しい世界を創り出したいという気持ちは強かったですね。月姫にしろFateにしろ,これまでのTYPE-MOON作品は「今の時代にはこれだ!」という要素をガンガン入れてきた。空の境界のような小説作品ならともかく,TYPE-MOONというチームで作るノベルゲームなら,まずエンターテイメントとして受け入れられるものにしようという気持ちが強かった。
 ですが「まほよ」に関しては,今の流行はひとまず置いておき,ひたすらに丁寧なものを作ろうと思ったんです。これまでTYPE-MOONは娯楽としての要素を強く押し出してきたけど,一度ここで工芸品のような,あるいは映画を作るようなイメージでゲームを仕上げてみようと。テキストだけではない,CGだけではない,音楽だけではない,それらをまとめて「ひとつ上のもの」。そういうノベルゲームやアドベンチャーゲームというジャンルそのものの底上げをやってみたい,という気持ちがあったんです。

4Gamer:
 工芸品という言葉は,すごくしっくりきます。いわゆる王道のエンターテイメントとは別の場所を目指しているというか。月姫やFateではかなり早い段階で「吸血鬼を倒しに行く」とか「聖杯戦争を終わらせる」といった明確なゴールが見えていましたが,「まほよ」では物語の着地点がすぐには明かされない造りですよね。

奈須氏:
 「まほよ」は1980年代のジュブナイルを強く意識しました。でもそれって,今のプレイヤーにとっては,目新しいか退屈かの,どちらかなんですよ。ハリウッドを例にとると分かりやすいですが,あれって5分に1回見せ場を作るような方程式で作られてますよね。単純にエンターテイメントとして優れたものを作るなら,そうやって巻き巻きにしていくべきなんだけど,今回は1980年代という緩やかな時間をベースにした世界を作るという事にこだわりたかった。結果的にそれが穏やかで静かな空気を産み出す事につながったんだと思います。

こやまひろかず氏(以下,こやま氏):
 地味ですけど,例えば雨が降っているシーンなんか,気を使ってます。戦闘シーンももちろん気合を入れて描くんですけど,そういうものをより引き立てるためにも,日常シーンは大事にしたかった。TYPE-MOONでグラフィックスを担当する時って,ケレン味重視の絵と写実的な絵にクッキリと分かれるんですよね。「まほよ」の場合は戦闘シーンのケレン味だけでなく,日常シーンの抒情性にもこだわってます。
4Gamer:
 オープニングで傘をさして街を歩く青子が,すごく印象的でした。ちなみに舞台となった1980年代後半というと,十一区のバブルの終わりにあたる時代ですよね。奈須さんご自身としては,1980年代についてどんな印象をお持ちなのでしょうか。

奈須氏:
 80年代後半は,誰もが「これからどんどん近代化が進んで,世の中が一層よいものになっていく」という夢を持てた時代じゃないですか。それは結局5年後に崩れ去ってしまう幻想なんですけど,それでも当時自分が見ていたキラキラした空気というのは,今でも宝物のように感じられる部分があります。たとえ,あれが大きな間違いであったとしてもね。そうしたことを2010年から振り返って書けるということは幸せですね。

4Gamer:
 正確な年数を決めず,1980年代後半という形で幅を持たせたことには理由があるんでしょうか。

奈須氏:
 初めははっきりと1987年に設定するつもりだったんです。でも1989年にはベルリンの壁の崩壊がある。そうすると,作中の時間が進むに連れて,その世界的事件に触れざるを得なくなってしまう。そちらに触れるとジュヴナイル伝奇からいつもの伝奇によってしまう。なので1980年代後半という設定しました。
 今回18禁要素を避けたのも,それを大事にしたかったからなんです。少年少女が恋を知る以前,人生を決定する前に交差する一瞬を描いた話なので,そこに18禁要素はいらないな,と。

4Gamer:
 ああ,なるほど。いや,それでもエロスはものすごく感じるわけですが(笑)。

奈須氏:
 それはもう,全部原画を担当したこの人(こやま氏)のせいですから(笑)。

こやま氏:
 ええっ,そこ俺のせいなの?

4Gamer:
 草十郎はよくあれで理性を失わないなと……いや,話を戻すと,そんな木訥な青年である静希 草十郎と,魔女である青子,久遠寺有珠の3人が,久遠寺邸で共同生活を送るというのが,本作のメインプロットになっています。この3人の距離感というのが,絶妙ですよね。単純なラブロマンスに回収できるものではないし,「こういう関係です」って一言で説明できるものでもない。そんな微妙な関係性が作品の空気を作っている。先ほどジュブナイルというお話がありましたが,まさにそんな青春のきらめきが描かれているように思いました。

奈須氏:
 そこが雑居モノの醍醐味です。本来は相容れないはずの3人が,自分の価値観やルールを変えないままに共同生活を続けていくという。でもその中では,もちろん損なわれていくものがあるんです。
 例えば草十郎は,山から下りてきた直後,第1章の時点だと,これまでのTYPE-MOON作品に出てきたどの主人公よりも凄い。それが文明に慣れて個人として確立していくことで,どんどん弱くなっていく。「まほよ」のテーマって,基本的に「都市と森」とか「進む文明」なんですよ。自然しか知らないままに生きてきた人間が,幸福に近づくことで生き物としては堕落していってしまう。そうやって徐々に変化していく草十郎と,一生変わることのない有珠,そしてどんどん新しいものを取り入れていく青子という3人が,あの洋館では交わっている。あとで誰かが振り返った時に,「そういう奇跡のような時間があったんだ」と思う物語を見せられたら,それはまさしく青春でしょう?


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2人の魔女,青子と有珠

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4Gamer:
 では各キャラクターに焦点を当てて,詳しくお話を伺っていこうと思うのですが,今作ではこやまさんが原画を担当されていますね。これまでのTYPE-MOON作品の表情を残しつつも,新しい魅力を持ったキャラクターになっていると感じました。まずはヒロインからということで,青子と有珠の2人についてお聞きしたいのですが。

奈須氏:
 青子はさっきも言いましたが,ブレない娘ですから。ただ草十郎のデザイン変更に伴って,青子のキャラ設定を修正した部分もあるので,ある種の化学反応があって面白かった。

こやま氏:
 僕は逆に,おっかなびっくりで出したキャラクターデザインを,生みの親である奈須さんにうまく動かしてもらえたので,安堵した部分の方が大きいです。これで本当に大丈夫なのかな,という不安はずっとあったので。

4Gamer:
 ファンにとっては,発売前から思い入れの深いキャラクターですものね。

こやま氏:
 それととくに意識したのは,どうにか年齢ゆえの“スキ”を表情として見せたいということ。「まほよ」の青子は高校生なので,プレイヤーが知っている「先生」としての青子や,「MELTY BLOOD」 のはっちゃけた青子ではない,少女としてのキャラクター性を出していきたいと考えていました。


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4Gamer:
 表情がころころ変わる青子は,すごく微笑ましかったです。「ああ,この娘が何年かするともっと素敵な女性になって,遠野志貴を助けてくれるんだな」と,不思議な気持ちで眺めることができました。では有珠については?

奈須氏:
 デザインレベルで言えば,有珠はとても分かりやすいキャラクターですね。

こやま氏:
 そうですね。有珠は武内 崇※デザインの原案デザインが最初にあるんですが,まあ彼の好みというのは金髪ヒロインか,あるいはショートボブかボブカットくらいの女の子ですから(笑)。

※武内 崇……TYPE-MOON代表兼,イラストレーター。奈須きのこ氏と共に,TYPE-MOONを立ち上げ,月姫からFateまでの原画・キャラクターデザインを担当。本作ではプロデューサーを務める。

奈須&つくりものじ氏(以下,つくり氏):
 間違いねぇ!

こやま氏:
 だから,そこさえ押さえておけば外さないなと。最初その辺り心持ち取り違えてて,途中で長さを微妙にいじる作業が必要になったり(笑)。

4Gamer:
 有珠は一見無表情なキャラクターですけど,遊園地でのバトルの後から,次第に微妙な表情を見せるようになりますよね。当初は草十郎のことをひどく警戒していた有珠が,心を許すにつれて色々な顔を覗かせてくれるというのは,ちょっと感動するものがありました。

こやま氏:
 その辺りのギャップは,プレイヤーさんもはっきり感じ取ってくれたようで,好評なのはすごく嬉しいです。無表情系キャラって,1枚のイラストだけなら楽なんですけど,これがゲーム制作の中で表情の差分を作っていくことになると,急激に難度がアップするですよ。

4Gamer:
 ああ,分かる気がします。

こやま氏:
 それで上手く描けなくて悩んでいた時に,奈須さんから「有珠は過去に捕われて生きていて,篭りがちになっている。精神的には年齢より幼い部分を残している」と言われて。それでつかえがとれたんですよね。実際,彼女は老獪な魔女の顔を持ちながら,人との触れ合いの際,時折,凄く幼い一面を覗かせるじゃないですか。それを理解できたら,後はすんなりと描けるようになりました。


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4Gamer:
 実は今日2周目をプレイしてきたんですが,2周目をやると,最初の頃の表情でも「あ,こんな顔してたんだ」という発見があって楽しめました。

こやま氏:
 「まほよ」は2周目こそが楽しいゲームだと思います。キャラクターの表情だけでなく,テキストの表現や細かい演出も含めて,1周目は何も考えずに楽しんでもらいたいんですけど,2周目はぜひ微妙なこだわりの部分を理解しながら見てもらいたい。そういうコンセプトで作ったところがあります。ただ,それのためには2周目以上のプレイに耐えるだけの内容に仕上げなければならないプレッシャーもありましたけど。

奈須氏:
 「まほよ」は本当にシナリオ,グラフィック,演出,音楽といったすべての要素が,ひとつの美しい図形を描いているタイトルなんです。なので,2周目をプレイすることで,そうした要素を楽しんでもらえれば嬉しいです。いや,複数回プレイだからこその楽しみってあるじゃないですか。「DARK SOULS」とか,3回目,4回目のプレイがどうしてあんなに面白いのか!

こやま氏:
 あえて,ノーコメントで(笑)。

4Gamer:
 有珠に関しては,これまでのTYPE-MOON作品にいなかった雰囲気のキャラクターですし,表情や喋り方だけでなく設定まで含めて魅力的なヒロインだと思います。彼女は魔術行使の際,詠唱にマザーグースを使いますが,そのイメージも非常に面白いなと。

奈須氏:
 TYPE-MOON伝奇における魔術と魔法に関するルールだと,どうしてもメルヘン寄りだったり,童話チックだったりする魔術が扱えなくなってしまうんですけど,それがちょっと悔しかった。なのでひとり例外を残しておこう,という立ち位置が有珠です。彼女は絵本の魔術を使い,ワンダーランドを体現しながらも,世の中が近代化するにつれて消えていってしまう儚い存在です。なので,そもそもがTYPE-MOONの魔術のルールから一歩外れた,特殊な立ち位置にいるキャラクターなんですよ。

久遠寺有珠(くおんじありす)
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4Gamer:
 なるほど。奈須きのこワールドの原点となった作品だからこそ,成り立つキャラクターだと。

奈須氏:
 自分自身の心情を含めてですが,彼女は「まほよ」の世界にしか存在できないキャラクターです。自分のほかの作品で,似たタイプの人物が出てくることも,恐らくないと思います。……例えとして適切かどうか分からないんですが,スターシステムというのがあるじゃないですか。

4Gamer:
 手塚治虫作品におけるお茶の水博士のような。キャラクターは一つなのに,作品を超えて違う役割で登場するような,あれでしょうか。

奈須氏:
 そう。分かりやすい言い方をすると,例えば青子だったら,彼女にスターシステムを適用するのは抵抗ないんですよ。実際TYPE-MOON作品には,彼女を原点とした同系統のキャラクターが登場していますし。

4Gamer:
 月姫の遠野秋葉や,空の境界の黒桐鮮花,Fateの遠坂 凛などですね。

奈須氏:
 「勝気なお嬢様的ポジション」ってやつです(笑)。一方,有珠のポジションにほかのキャラクターを置くことはしたくない。自分にとって,どうしても汚しがたい,オンリーワンの立ち位置ですね。……まあ,有珠というキャラクターで語るべき事は「まほよ」ですべてやる,という点もあるのですが。

4Gamer:
 マザーグースに関しては,以前から思い入れがあったんでしょうか。

奈須氏:
 いや元になっている小説では図書館で2,3調べたくらいで,あそこまでメルヘンメルヘンした感じではなかったんですよ。マザーグースは調べていくと色々と面白くて。例えばでディドルディドルの歌詞が出てくるじゃないですか。あの歌詞が間違ってると思う人がいると思うんですけど,あれも正しいんです。

4Gamer:
 というと?

奈須氏:
 よく「High」じゃなくて「Hey」だろってツッコまれるんですけど,でも古いディドルは「High」でもある。マザーグースは言葉遊びが強いナンセンスな内容なので,イギリス圏のPTAみたいな,キリスト教のある一派からのお達しで詩の検閲がされてしまった。ナンセンスはいいが,文法の過ちは許さない,と。けど有珠が詠唱に使うんだったら,オリジナルの方じゃなければ嘘でしょう?

4Gamer:
 ああ,確かに。ほかにも「不思議の国のアリス」へのオマージュも入っていますが,そちらはいかがですか。

奈須氏:
 ルイス・キャロルは厨二病的な感性の先輩じゃないですか。原作を書いてる段階から,一度はアリスをモチーフにしたものを書きたいと思って。その頃はまさかここまでアリスをモチーフにした作品が世の中に溢れるとは思ってなかったけど……。

4Gamer:
 アリスやマザーグースを使った作品って名作が多いですよね。「ポーの一族」や「パタリロ」とか。本作でも,有珠が持つ独特の空気が周りのキャラクターと馴染んでいる点が本当に素晴らしかった。あとマザーグースに「暗黒童話」というルビを当てている辺り,奈須きのこ節が感じられて嬉しかったです(笑)。


“山門異界”草十郎。その境遇,うらやむべきか
静希草十郎(しずきそうじゅうろう)
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4Gamer:
 青子と有珠が,奈須きのこワールドを形作る魔術サイドのキャラクターである一方で,本作ではそこに迷い込んでくる異邦人として,男性主人公である草十郎が描かれています。先ほどのお話にも出たように,原作から大きくイメージが変更されたキャラクターとのことですが,彼についてはいかがでしょうか。

こやま氏:
 僕は元の小説を読んだ段階で,彼にそこまでワイルドで男臭いイメージを持たなかったんですよね。どちらかというと空の境界の黒桐幹也に近い印象でした。そこで武内さんの原案イラストとの間に食い違いがあったんです。なのでなかなか決定稿に至らなかったキャラクターです。
 ただ僕自身は,自分が最初にイメージした草十郎に,これは絶対にいけるはず,という確信があったので,ここは我を通させてもらおうと説得して,今の形になりました。

4Gamer:
 キャラクターイラストの変更は,奈須さんのテキストにも影響があったのでしょうか。

こやま氏:
 キャラ絵が変わったことで,奈須さんの中の草十郎も,ちょっと変わったみたいです。でも僕にとっては最初に読んだ原作のイメージが今の草十郎なので,むしろ変えてほしくなかったんですね。だから奈須さんがちょっとナヨっとした描写に変えてきた部分は,元のままでいきしょうって僕の方から言ったり。逆に,僕が柔らかい表情を描いた時には,奈須さんの方から,ここはもっとワイルドな感じで,と意見をもらったりしています。

4Gamer:
 草十郎が口をバッテン(×)にした可愛らしい表情を浮かべるシーンがありますよね。では,あれはこやま版の草十郎になって生まれた表現なのでしょうか。

奈須氏:
 自分はバッテンの顔より,ヘの字口でむくれてる顔がお気に入りです。どちらも初期案にはなかった表情ですね。元々の草十郎は壁のようなイメージの男で,感情を表に出さず,単に「そうか」と言って納得するような人物でした。こやま版は,相手が何か言ってきたら,きちんと返事をする感じ。


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4Gamer:
 ちょっとズレた返事ではあるけれど。

奈須氏:
 そう,本人は大真面目なんだけど,だからこそイラッとする。しかし基本的にもの凄くいい奴なので,何か文句を言ったとしても,結局はそれを言った方が申し訳ない気持ちになってしまう。そういうキャラクター像を目指しました。

こやま氏:
 最終的には新旧の草十郎が融合していきましたよね。

奈須氏:
 そこはシナリオライターの腕の見せ所ですから。きっちりお仕事させていただきました。

4Gamer:
 草十郎が青子に向けて言った,「有るものは有る」というセリフが凄く印象に残っているんです。理屈で考える前に,まず現実を受け入れてしまうという,かなり特殊な精神構造をしたキャラですよね。

奈須氏:
 前提として,彼は目で見たものを否定しないし疑わないんです。ただそれって,自分というものがないからでもあるわけで。普通は人間である以上,見るものすべてに主観が入ってしまって,見たいもの/見たくないものを選別しますよね。でも草十郎は,そういう物事の価値や善悪を判断しないしできない。

4Gamer:
 そもそも,判断するために必要な基準を持っていない。

奈須氏:
 その意味で,山から下りてきたばかりの彼は,まだ人間にさえなれていない。時間が経つにつれて,彼もまたどんどん人間社会に適応せざるを得なくなっていくわけですが,同居人達はそれに対してそれぞれ異なる想いを持ってます。根底にある彼の思想だけは永遠に変わらないでいてほしいと思っているのが有珠,変わっていくんだろうけど,そこに危うさを感じているのが青子,という感じです。

4Gamer:
 クライマックスのシーンで,草十郎がもの凄く冷たい眼をするシーンがあるじゃないですか。あそこで,それまでのぽやんとした草十郎のイメージが,切り替わるように思うんです。

こやま氏:
 そうですね。あそこで「あれ,何か違うぞ」って,プレイヤーには感じてほしかった。僕はギャップ好きな人間なので「優男に見えて実は……」という草十郎のキャラを,皆にも愛してもらいたいです。

奈須氏:
 ははは。無力と思われてた主人公が,実は強かったなんてのは,もうライトノベル業界が15年間育んできた黄金のテンプレじゃないですか。原作が書かれた当時ならまだ良かったですけど……。

4Gamer:
 まあ,確かに(笑)。

奈須氏:
 2012年の今それやるのは,少なからず不安もあったんです。なのでそこは極力自然な形で強さを表現して,古くさくならないように気を使った。例えば草十郎の眼が突然ピカーンと光ったりしたら,それはちょっと萎えるじゃないですか。そうではなく,それまで積み上げてきた「まほよ」の空気感を壊さない形で,静かに草十郎の異常さを見せたかった。その意味で,あそこの草十郎のグラフィックスは素晴らしかった。

4Gamer:
 つくりさんはいかがですか,草十郎については。

つくり氏:
 彼は……かわいそうな奴ですよね。

(一同爆笑)

つくり氏:
 だってそれまで平穏に暮らしていたのに,いきなりあんな魔女の館に放り込まれてしまうわけでしょう? 彼はしっかりしているからまだいいんですけど,「俺がこんな所に投げ出されたら2時間持たんぞ……」という。あんな処遇なのに良く頑張ってますよ。多分「まほよ」における実質的なヒロインは彼ですね。

奈須氏:
 そ,そうか。あの境遇をかわいそうだと思えない時点で我々はダメなのか……。

つくり氏:
 けがれてしまった大人ですよ。ダメダメですね。

4Gamer:
 プレイヤーとしても,あの状況をうらやむべきかどうか迷います。MM二人との生活をうらやましく思う半面,現実的に考えると命が幾つあっても足りない。

奈須氏:
 青子を彼女にするのは,やめておいた方がいいと思いますよ。奴と恋人になると,毎日が辛いです。不真面目に生きていると,怒られちゃいますから。逆に有珠は,人間的には怖いところもあるけれど,デレちゃえば優しいはずなのでオススメ。これがTYPE-MOONのスタッフ内で議論した結論です(笑)。


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こやま氏:
 でも青子の支持率も,最近上がってきたみたいだけど。引っ張っていってもらえるし,それはそれでアリかな? という。でも僕はダメ人間なので,それでも有珠の方がいいと思うけど……。

4Gamer:
 Fateでも,凛が「早く一人前の魔術師になりなさい!」って,士郎にハッパをかけてましたが,TYPE-MOON作品の女性キャラは,男側もレベルを上げていかないと捨てられそうなおっかなさがありますよね。

奈須氏:
 それはツラいですわな……ただ青子の場合は,その人間ができないことを,強引にやらせようとはしない。あくまでできる範囲で死力を尽くせという。なのでダメ人間が彼女と一緒に暮らすと,真人間になれるはずですよ。

4Gamer:
 ではメインの3人を除いた,そのほかのキャラクターはいかがですか。とくにお三方の印象に残っているキャラクターとか。

こやま氏:
 僕は橙子さんの表情が,とにかく描いていて楽しかったですね。

4Gamer:
 橙子さんは,空の境界と比べて,かなりアクティブに動くキャラクターになりましたね。

こやま氏:
 だいぶ浮き沈みの激しい人になっていて,それが表情にも表れているように思います。その浮き沈みというのも,本人が精神的に追い詰められてテンパっているからこそのものなんですが,描いている方としては楽しかった(笑)。

蒼崎橙子(あおざきとうこ)
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奈須氏:
 まったく,この人は不幸萌えなんだから(笑)。自分的には言うまでもなく金鹿ですが。

4Gamer:
 今のところ本筋には絡まないながらも,存在感の大きいキャラクターですね。

奈須氏:
 金鹿はそもそも原作には登場しないキャラクターでした。しかし,制作段階で我々は気付いてしまったんです。「このゲームには萌えキャラがいない」と!

4Gamer:
 な,なるほど。

奈須氏:
 なので,とにかく可愛いことがそのまま存在意義になっているようなキャラを,と金鹿は望まれました。しかし,結果的に性格がツンツンした,たくましい女の子が生まれてしまって。奈須きのこの限界を感じさせてくれました……。で,でもデザイン的には我々のアイドルですよ。

こやま氏:
 紆余曲折はありましたけど,デレのないツンデレということで,コンセプトが分かりやすかった。だから非常に描きやすいキャラクターでした。

4Gamer:
 これはどのキャラクターについてもなんですが,とにかくキャラクターの表情が豊かで,しかも本当に微妙な描き分けがされているのが印象的でした。勘違いだったら申し訳ないんですが,13章で青子と草十郎が出かけるのを見送る時の有珠の表情って,あのシーンでしか使われていないですよね。

こやま氏:
 おお,よく気付きましたね。あれは奈須さんの要望があって,専用の絵を描いたんですよ。

奈須氏:
 あの場面ではどうしても専用絵が欲しかったんです。「1クリックで消えてしまうけど,描いてくれ!」という絵が,「まほよ」にはほかにも沢山ある。

4Gamer:
 月姫でも,1クリックで消えていく虎のイラストがありましたね。

奈須氏:
 ただ,月姫のあれは「これまで出てきてないイラストだ」ということが,すぐに分かるじゃないですか。「まほよ」の場合,とくに有珠の表情なんかは,よく観察していないと分からないレベルです。けれど妥協なしで作っていくにあたっては,どうしてもこだわりたかった部分だった。

こやま氏:
 つくりさんがスクリプトを組み始めてからも,「この表情だと合わないから,専用で絵を追加しよう」というのがどんどん発生していったんです。後追いでの表情追加は,かなり多かった。

4Gamer:
 キャラクターの表情や動きに関しては,こやまさんとつくりさんが連動して動いていったということですか。



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膜拜殿下 发表于 2012-5-19 10:05:14

本帖最后由 大成 于 2012-5-19 10:09 编辑


こやま氏:
 そうですね。制作が後半に入ってくると,その場でしか使えないカチッとしたイベント絵よりも,汎用的に使い易いキャラクターの全身が入った絵やシルエット素材のリクエストが多くなっていきました。そのあたりは,つくりさんとの間で頻繁にやりとりして進めていきました。
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久万里 金鹿(くまりこじか)
“つくりマジック”――「まほよ」における演出の妙

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4Gamer:
 話題がでたところで,スクリプトを担当されたつくりさんに,主に演出面についてお話を伺っていきたいと思います。すでに話題に挙がったように,本作ではハイレベルなスクリプト演出が作品世界を支えていますよね。つくりさんご自身は,初めに「まほよ」のアイディアを受け取った時にどのようなイメージを抱かれたのでしょうか。

つくり氏:
 そもそも最初は,そんなに大きなプロジェクトではなかったはずなんです。小説の挿絵のようなものを作って,絵の数も少なめでいこうという。ところが実際に作り始めてみると,従来の演出では,「まほよ」の世界観をうまく表現できなかった。楽にプレイできるけど,やり終えた時に魂に訴えてくるものがなくて,スーッと終わってしまうというか。

4Gamer:
 「まほよ」はFateとは違い,ほとんどのシーンで三人称の文体が採られていますよね。そこがまず大きな違いなんじゃないかと思うのですが。

奈須氏:
 原作である小説版が三人称でしたし,内容としてもシンプルだし,メインは青子と有珠と草十郎という3人の生活だったので,それを客観的に見せる意味でも三人称にしたかったんです。ただ実際には,ノベルゲームを三人称で描くというのは,すごく難しいんですよ。これまでのギャルゲーやノベルゲームの文脈で文章を三人称にしてしまうと,グラフィックスや演出が破綻してしまう。そうした問題をパーフェクトにカバーしてくれたのが,つくりものじの演出なんです。

4Gamer:
 これまでのノベルゲームの文法というと,背景の上にキャラクターの立ち絵が正面を向いて立っていて,掛け合いの会話をする方式ですよね。それを前提としつつ,盛り上がるシーンではイベントCGを用意する,みたいな。でも「まほよ」では,もう立ち絵とイベント絵の区別がない。

奈須氏:
 「まほよ」にはイベント絵ってほとんどないんです。プレイヤーがイベント絵だと思っていても,それはほぼ立ち絵の組み合わせでできています。

4Gamer:
 CGは全体で何枚くらいあるんでしょう。

こやま氏:
 200枚はいってないんじゃないかと思います。いわゆるキャラクター主体のイベント絵に限ればそう多くはありません。こちらで差分を用意したものと,つくりさんが演出判断で独自に切り貼りして作った素材も多数あるので正確な数が把握できないんですよ。

つくり氏:
 これまでのFPS的な,一人称の演出ではなく,奈須さんの三人称の文体に合わせた演出をしようと思ったんです。背景に立ち絵を乗せていく従来のやり方だと,もし2人のキャラクターがいたとしても,彼らはお互いの方向ではなく,プレイヤーの方を向いているわけじゃないですか。にもかかわらず,彼らはプレイヤーをいないものとして,こちらをガン見しながら2人で会話を続けていく。

4Gamer:
 ある意味,ノベルゲームの“お約束”の部分ですよね。

つくり氏:
 そうです。自分は今回の「まほよ」においてはその表現に違和感を覚えていて。なので極力従来の表現から外していったというところです。そういう“お約束”が,プレイヤーを物語に飲み込む障害になっているように思えてしまって。

4Gamer:
 実は今回のインタビューでは,奈須さんやこやまさんももちろんなんですが,つくりさんにぜひその辺りのお話をお聞きしたいと思っていました。というのも「Fate/hollow ataraxia」の中のとあるシーンが,強烈に印象に残ってまして。セイバーとアーチャーが冬木大橋で対決するシーンなんですが,あれもつくりさんの演出ですよね。

「Fate/hollow ataraxia」より「決戦」。「Fate/stay night」本編では実現しなかった,セイバーvs.アーチャー戦を描いた,TYPE-MOON作品中でも屈指の名シーンだ
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つくり氏:
 すみません,そうです。

4Gamer:
 あれを見たときに,ものすごい衝撃を受けたんです。もう,これでノベルゲームの常識が変わるんじゃないか,というくらいに。……実際には,それを引き継いだタイトルというのは,その後現れなかったように思いますが。

奈須氏:
 あそこはつくりさんの切った絵コンテが先にあって,それに合わせて周囲が作業する形で作ったんです。Fate/hollow ataraxiaの場合,演出に関してはFateでやり尽くしちゃった感があったんですが,その中で唯一の挑戦,新しいことをやろうと考えたシーンです。

4Gamer:
 もうあのシーンだけ,なんども繰り返しプレイしてしまったくらいです。なので今日はつくりさんに同席していただけて,本当に嬉しく思っています。あれ以来,ノベルゲームにおけるスクリプターはもっと評価されるべき! とずっと考えていたんです。

つくり氏:
 そう言ってもらえると嬉しいです。ただ「まほよ」の場合は,素材は一人称用のものがかなりの数が上がってきてしまっていたので,今更それを全部三人称用のものに替えてというようなことはできなかったんですね。それで結果的に一人称を想定して作られた素材で三人称用の演出をするという増改築に挑戦することになって……これがなければ「まほよ」は1年くらい前に発売されていたはずで,本当に申し訳ないです。

奈須氏:
 つくりさんがどれほど凄いことをやっているかを補足したいんですが,一人称用の素材というのは,Fateまでの方**で作られたものなんです。衛宮士郎という主人公がいて,彼が見た風景を素材として作る。だから基本的には,主人公視点の絵しか存在していないはずなんです。

こやま氏:
 立ち絵も背景も,用意したのは従来のお約束に則った水平な視点のものばかりでしたからね。上から見たり下から見たりした絵がほとんどない状況で,あたかもカメラが動いているかのような演出を作っていく。言葉にしちゃうと「ふーん,そうか」ですけど,一枚の絵として完成させたものをバラバラにして,自由なアングルで再構築していく,実際とんでもない離れ技ですよ。

奈須氏:
 まさに「つくりマジック」です。

4Gamer:
 いやもう,マジックと呼ぶに相応しいと思います。ああいった演出というのは,どういう工程を経て思いつかれるのでしょうか。やはり事前に絵コンテを切るんでしょうか。それとも実際にスクリプトを組みながら,パズルのように作業にはめ込んでいくんですか。

つくり氏:
 ほぼ後者ですね。重要なシーンだと,前もって絵コンテを切る場合もあるんですが,日常の会話シーンなどは,実際に作業しながら「こうやるとうまくつながるぞ」という演出を手探りで見つけていく感じです。ただ,さすがにスクリプトの座標の数値を手打ちしていくのは時間がかかりすぎるので,そこは専用のスクリプトエディタをプログラマーの清兵衛さんに作ってもらいました。おかげでこちらは純粋に演出作業に労力を割けたので,マジックと言うなら清兵衛マジックかと。

4Gamer:
 日常のシーンだと,すべての画面にアニメ制作で言うところのレイアウト※が入っていますよね。少なくとも本編においては,先ほども話題に挙がった「キャラクター2人が正面を向いて並んでいる」というシーンはなかったように思います。

※レイアウト……アニメ制作における演出の一工程。絵コンテから起こしたカットに対して,キャラクターや背景などの要素を配置し,画面の構図を決定すること。


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つくり氏:
 そうですね。実際にプレイした方は動いているシーンの方に目を止めると思うんですけど,作業の段階で一番時間がかかっているのは,既存の素材からレイアウトをとる部分なんです。もちろん戦闘シーンなども重視しましたが,日常シーンにおける情感をなるべく伝えたかったので。

4Gamer:
 ノベルゲームの“お約束”に我慢ができなくなったとおっしゃってましたが,それを意識されたのはいつ頃からなのでしょうか。

つくり氏:
 うーん。自分も以前は「これはこういう記号だから」という気持ちで処理できたんですが……。「まほよ」に限っては,製作開始からずっとそこが気になってしかたなかったです。

奈須氏:
 そこは立ち位置の違いじゃないですかね。例えばプレイヤーでいる限り,アドベンチャーゲームっていくらでも妥協できてしまう。お約束に頼れば,コストをかけなくても物語は語れてしまうから。しかし,その前提を頭では理解しつつも,作り手側に回った時に妥協を許せなくなっちゃう人がいて,その代表がまさにつくりものじなんですよ。

つくり氏:
 文体が三人称視点であったという点と,あがってきた背景やキャラクターのクオリティが,これまでと段違いだったことも大きいと思います。それこそFateの頃だと,まだ記号として扱えたんです。でも「まほよ」のグラフィックスから受ける立体感や空気感はとにかく濃密で,これを活かさない手はないと思いました。始めは背景と立ち絵が違和感なくなじむような演出をと考えたんですが,なじませる程に違和感がその“従来のお約束”の部分にシフトしていくわけです。で,それならもういっそのことシーンごとにカメラが切り替わるような演出にしたら面白いんじゃないか,という発想になりました。

4Gamer:
 つくりさん的にはいかがでしょう。結果として完成した「まほよ」の演出には,満足されてますか。……正直に言いますと,とくに日常パートについては,まだ先があるんじゃないかと,個人的には思っているのですが。

つくり氏:
 いや,すみません,まさにそうなんです。部分部分で調整不足だな,と思っているところが結構あるので,今後はそこを詰めていきたいです。

奈須氏:
 自分としては,おかしくなっちゃう前につくりさんにはガス抜きをしてほしいんですけど(笑)。

■[コラム]“つくりマジック”の真*相「飛び立つコマドリ」

 本文中でも語られた“つくりマジック”の中から,その幾つかをピックアップして紹介しよう。
 まずはコマドリが有珠の前に飛んできて,奥手に飛び去るシーン。このシーンで使用されているコマドリの素材は左の2種類のみで,実際の動きはプログラム上でかけられたブラー処理などで表現されている。また滞空して一瞬止まる部分では,画像の透明度変化と上下運動で,それっぽい動きを再現したとか。まさに氏のこだわりが産んだといって過言ではないコマドリの動きだが,ここで得られた技法は,戦闘シーンなどにもフィードバックが行われ,活用されているとのこと。

 ちなみに物語前半では「ピピピ」としか喋らないコマドリだが,実はそのすべてにちゃんとしたセリフが用意されている。開発の途中までは,それを表示する「コマドリスイッチ」オプションがあったそうだが,彼が喋るとロマンチックなシーンが台無しなるので,泣く泣く削ったのだとか。

奈須氏によれば,コマドリのセリフのモデルとなったのは,つくり氏自身とのこと。つくり氏が鳥好きということもあり,両氏の思いれたっぷりのキャラクターに仕上がっている
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廃遊園地での戦い――狂気とセンスに満ちた演出
4Gamer:
 つくり演出を知る手がかりとして,つくりさんご自身が影響を受けているような作品があればお聞きしたいのですが,いかがでしょうか。

つくり氏:
 ……今回特にこの作品,というのはないですね。しいて言えば映画やテレビ,あるいは自然の風景といったものまで含めて,子供の頃から見てきたものの積み重ねだと思います。例えば青子の踏み込みやゴーレムの挙動なんかは,子供の頃に見た,サンダーバード2号からエレベーターカーが降りてくるシーン等が参考に……なってるのかもしれないです。

奈須氏:
 それ初耳(笑)。

つくり氏:
 意識というより,最近衝撃を受けたということなら,「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」とか。Fateの時とは別の意識を持っていたこともあって,それはより臨場感を出すということだったんですね。Fateだったらセイバーが剣を振る時に「いかにかっこよく剣を振るか」だけを考えましたけど,「まほよ」では「振る前と,剣を振ったらその周囲はどうなるんだろう」ということを考えました。ヱヴァンゲリヲンでも射撃そのものは言うまでもないのですが,そのための変電設備のかっこよさは異常でしたし。

4Gamer:
 ああ,まさにヤシマ作戦※ですね。すごくよく分かるお話しです。そうか,青子はラミエルだったか。……ちなみにつくりさんは青子や有珠にどんなイメージをお持ちですか?

※ヤシマ作戦……「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」に登場する,架空の作戦名。新劇場版では「第6の使徒」として登場したラミエルを陽電子砲による狙撃で迎え撃つため,十一区中を停電させるというシーンが描かれた。ビームの撃ち合いによる緊迫した戦いが展開される,同作の名場面の一つだ。

つくり氏:
 作っている最中には,この部品をどうやっていじろうかということしか考えてなかったので,彼女達をキャラクターとして見られるようになったのはマスターアップ後ですね。遊園地のシーンで青子が草十郎を殴るシーンを見返して,「あ,なんか勘違いしてたけど,やっぱり青子がヒロインっぽいかも」と思ったりしました(笑)。

奈須氏:
 ずっと言ってたもんね。ビームとかやめましょうよって。ヒロインがビームとか意味分かんない,ありえないでしょって。

つくり氏:
 ありえないですよね。だって,原作ではビームとか撃ってないじゃないですか!

奈須氏:
 原作ではそもそも遊園地自体が出てこないし。雑居前の戦闘は人形で終わりなんですよ。

4Gamer:
 ええっ。いやあの遊園地のシーンは,派手さという意味では,「まほよ」の一番の見せ場だと思うんですが……。

奈須氏:
 このつくりものじという鴨……いえ,男が犯人です。原作では人形戦も夜の学校が舞台だったんですけど,それはFateでやったし,別の場所にしようということになって。しかし,複雑な地形を選ぶと素材作りがたいへんになる。どこかコストかからない,けど雰囲気のあるステージはないか……と悩んでいたら,さらっとつくりさんが「廃遊園地というのはいかがか」,と。それコストバカ高ですよね!? とつっこみながらも,「廃遊園地……たまらん(ごくり)」。


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つくり氏:
 自分もそうなんですけど,廃墟を好きな人って多いじゃないですか。廃墟が持つ独特の空気の中で,得体の知れないものに追われるという状況って,素晴らしいと思ったんです。ただ言っておきたいのは,そのアイデアを思い付いたのは「まほよ」がもっと小規模だった頃ですからね。それがあれよあれよという間に大きな話になり,更に三人称でバリバリ動かすことになって。だから終盤には「廃墟チクショー! そもそも絵がねぇ! あのシナリオライターが!」という気分でした。

4Gamer:
 ということはフラットスナーク戦は,最初は予定されてなかった?

奈須氏:
 そうです。他の部分は原作の流れまんまですが,廃遊園地と番外編各種は2009年の奈須きのこの芸風です。……まあ,あんなに早く有珠が本気を出すつもりじゃなかったんですが。でも遊園地戦の構想がまとまって,これは面白くなるという確信が持ててしまったら,もう出すしかない(笑)。最初にプレイヤーにおもねる要素は無理に入れないという話をしましたが,この遊園地戦ではそれが必要になるだろうと。で,その後になって,さらにこやまさんがビームを撃ちたいと言いだして。

こやま氏:
 え,俺が? ……そうだっけ?

奈須氏:
 ちょうど「ヱヴァンゲリヲン新劇場版:序」が公開された時ですよ。言ってたでしょ,俺もビームが撃ちたいって。王道がやりたいんだって。

つくり氏:
 微妙に違いますね。こやまさんは確かに王道をやりたいとは言ってましたけど,それを受けてビームを撃たせたのはあなた。犯人はあなたです!

奈須氏:
 マ,マジか……でも,ほら,青子は元々ビー魔ーだから……。それに,少なくともビームどころか拡散波動砲を撃たせたのは間違いなくあなたですよ! 俺,スクリプト見てビックリしたもん! 「まったく知らないシーンになってる!」って(笑)。

つくり氏:
 それはまあ,確かに……。でも都合3.5射させるとか聞いてないし! 全く同じビーム3回撃たせるわけにいかないでしょ!

4Gamer:
 つまり皆さんのコダワリの合わせ技で,遊園地のシーンは成り立っているわけですね(笑)。

奈須氏:
 実際「まほよ」の制作は,誰かがハードルを上げると周りもそれに合わせて張り切るというものでした。それが循環して,つくりさんのところで一気にはじけた感じです。結果,「ものじの身体が耐えられない!」みたいなことに。

こやま氏:
 青子がビームを撃つシーンも,最初の段階では4本まででしたしね。その証拠に,ギャラリーの中にはビームが4本出ている絵がありますから。しかし実際にはその絵はバラされ,いつの間にか8本になってた。……初見の時はびっくりです(笑)。

奈須氏:
 いつのまにか魔法陣のアンテナが増殖していた。でも,あのクオリティを見せられたら誰も文句を言えない。こっちもテキストを直して対抗するしかない。

■[コラム]“つくりマジック”の真*相「青子ビーム 第二射の変遷」

 いつの間にか8本の拡散波動砲になっていたという青子のビームだが,つくり氏によれば,これは第一射目の演出が予想以上に派手になってしまったため,しかたなく変更を加えた部分だという。


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 画像の上段部分が当初予定されていた演出プラン。本文中でも触れているとおり,4本のビームが飛ぶことになっていたのが分かる。このままだと第一射目に比べ,威力が落ちているように見えかねないということで,パワーアップを図った最終的な演出が下段部分。ビームの本数が増えているのはもちろん,迫力と臨場感を表現するため,全体を引きで捕えた,遠景からの情景までが追加されている。「少しでも,青子さんパねぇと思っていただけたら幸いです」とは,つくり氏の弁。
4Gamer:
 恐らくスクリプト演出的な意味では,最後の青子と橙子のバトルより,遊園地の方が大変だったんじゃないかと思うんですが。青子の魔法の発動と共に,四季が移り変わる演出は鳥肌ものでしたけど。

つくり氏:
 あれを作ったのは,もう2年近く前ですよね。

奈須氏:
 あれは世界の書き換えが行われていることを,四季の変化で表現してるんです。背景作画チームの,鬼のような書き込みをご堪能ください。たった一分のシーンなのになんて贅沢なんだと。……ただ,あのシーン自体はかなり前に作られたものなので,つくりさん的には一番作り直したかったみたい。結局は,それより「なぜなにプロイ」を優先してもらったけど。

4Gamer:
 あのシーンでは,BGMやSEのタイミングや音量まで調節されてますよね。

奈須氏:
 本当に気合いの入ったシーンは音楽もSEも全部コントロールしていますよ,つくりは。恐らく今のものじがスクリプトを組み直したら,橙子戦もかなり違ったものになるでしょうね。バトル面のクオリティは遊園地戦を最高のものにしたかったから,遊園地を制作の最後に回してもらったんです。演出の技術的なピークは,やっぱり遊園地です。

つくり氏:
 さっきも言ったスクリプトエディタとそれを使う技術が熟成したのが,開発の終盤になってからなんです。「こういう機能が欲しい」とか「このバグをなおしてほしい」というフィードバックをしながら,スクリプトの作業と並行して進んでいったので。「まほよ」の場合,結局エディタと自分が落ち着いたのがちょうど遊園地のシーンを組んでいる頃で,それも合わせて完成度が高くなっています。


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奈須氏:
 初期はやりたいけどできないということも多かったからね。……ちょっと驚く話をすると,そもそも遊園地のシーンって,通常の背景素材を1枚しか用意してないんですよ。さらに5章前半のミラーハウスに至っては,そもそも背景素材が存在しない。「青子が走っていて,一面の壁に青子の足が映っているイベント画」を切り貼りして,ミラーハウスを表現しているという。

つくり氏:
 まあ積極的にやったというより,ある素材でどうにかやりくりしたというのが正確なところですけど(笑)。

奈須氏:
 いやそれが凄いんですよ! 皆は5章後半の遊園地が凄いといってくれて,それはもちろんそうなんですけど。でも5章後半がものじのセンスで作られているとすれば,5章前半はものじの狂気が爆発している。「まほよ」において,「ないものをあるように見せる」という技術の集大成が,ミラーハウスだと自分は思ってます。

4Gamer:
 あのシーンは,テキストの段階からああだったんですか?

奈須氏:
 ああでした。正直,テキストの段階では「ここの表現,無理じゃね」って……(つくり氏を横目に)あ,無理じゃないです。ライターがそんな無茶な指定するわけないじゃない?

つくり氏:
 ……。

奈須氏:
 ごめん。内心,ミラーハウスだけは普通のノベルゲームっぽく,画面を空に逃がして文章を流すことで誤魔化すしかないと思ってた。でもつくりものじは逃げなかった。だからミラーハウスのシーンは,シナリオ担当の自分が一番驚かされたシーンなんですよ。

■[コラム]“つくりマジック”の真*相「ミラーハウスの戦闘」

 背景素材の存在しないというミラーハウスのシーンは,いったいどうやって作られたのか。スクリプトエディタ上の画面を見ながら説明していこう。


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 画像は左が完成したゲーム画面,右はその構成要素を,分かりやすいようバラバラに表示したものとなる。1~4番は背景の鏡面を構成する画像だが,これらはありもの素材を切り貼りすることで形作られている。1番は割れた鏡画像の背景部分を,2番は青子が走っている画像の背景を,3番は迫ってくる人形の背景を,それぞれ切り出して使用したもの。なお4番は1番と同じ素材を加工したもので,上に重ねることで色味を表現している。
 さらに5~7番は水族館シーンの背景から抜き出した整列用ポール。8~13番は鏡の継ぎ目を表現するため,細い線の画像をプログラム上で白や黒に着色したもの。最終的には先の背景にこれらの素材,青子の立ち絵を組み合わせ,その上ですべての明度,コントラスト,透明度,倍率,レイヤータイプなどを調整した結果に,我々が実際に目にするゲーム画面が生み出されているのだ。


TYPE-MOONがノベルゲームにこだわり続ける理由

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4Gamer:
 ここから「まほよ」の全体像について,とくにノベルゲームへのこだわりなどを中心に伺っていければと思います。というのも,現在はTYPE-MOON作品も小説からアニメまで,幅広く展開されていますよね。それでもなおノベルゲームにこだわって,本作のようなタイトルを生み出されたことには,なにかしらの理由があると思うんです。

奈須氏:
 自分はやっぱり,2004年くらいまでのアドベンチャーゲームが大好きな人間なんです。何が面白かったかというと,娯楽の王様だったアニメに立ち向かおうとした人達が「俺達も面白いもの作ってやるよ!」って奮起したからじゃないですか。でも今って,アニメ化されることが目的になってる節があって,アニメの文法によってきてしまっている。

4Gamer:
 確かに1990年代後半から2000年代冒頭にかけてって,アニメよりもノベルゲームやライトノベルの方が,いわゆる「オタクの教養」として優先順位が高かった時期ですよね。それ以前もそれ以後も,やっぱりアニメが強くて,今の状況から考えるとちょっと信じがたいくらいですけど。

奈須氏:
 そう。だから現状のこの界隈のコンテンツのあり方っていうのが,自分には居心地が悪い。ゲーム,小説がアニメという完成形への途中だと言われている気がして。そうじゃないんだ,これで完成形なんだと,胸を張って言える世界を作りたかった。自分自身が本当に楽しめる作品が,よそから生まれ続けるためにも。「何かの代用品」ではない,「ADVにしかできない」ものにチャレンジしたかったんです。

4Gamer:
 最初に奈須さんがおっしゃっていましたが,ノベルゲーム全体の底上げを狙っているというのは,プレイしていてもハッキリと感じられました。「まほよ」を見ていると,確かにこれが完成形なんだ,という意思を強く感じます。

奈須氏:
 もちろん,結果としてメディアミックスしていただけるのは嬉しいです。「まほよ」だってそうなってくれれば嬉しいけど,それよりも作品として,とにかく完璧なものを作りたい。「まほよ」発売後,知り合いのライターに「ここまでメディアミックスを無視したゲームをプレイしたのは初めてだ。映像化不可能とかいう謳い文句は何度も見てきたけれど,これは映像化する必要がそもそもない」と言ってもらえて,その言葉に凄く救われた。たとえ時代に逆行していても,それだけで「まほよ」は価値があると胸をなで下ろした。

4Gamer:
 先ほどFate/hollow ataraxiaのセイバーvs.アーチャー戦の話をしましたが,あのシーンをプレイしたときに,ノベルゲームというジャンルの可能性を見た気がするんです。あれはアニメではできないし,もちろん小説でもできない表現です。

奈須氏:
 スクリプターというのは,本来それができる立場のはずなんだよね。映画監督のようなものですから。

4Gamer:
 個人的な意見ですが,ノベルゲームというのは,何かを物語る上で,制作にかかるコスト(マンパワー)と得られる表現力が,ニッチなところで奇跡的に釣り合った表現形式だと思うんです。アニメの表現力は高いですが同時にコストも高く,小説は表現力に劣るが低コストだと。ノベルゲームはその中間にあって,かつ,この形でなければ伝えられないものもあるんじゃないかって。

奈須氏:
 それは確かにそうなんですけど,コストのほかに時間もあるので,なかなか簡単ではないです。現状ではスクリプターにかかる負担が大きすぎるんですよ。アニメで100人かけて作るシーンを,一人で作っているようなものですから。かといって人を増やしてもつくりさんのセンスに付いていけない。結局,つくりさんが一から作り直す事になる。ああ,新海 誠※さんが一人でやっていた頃に近いかもしれない。

※新海 誠……アニメーション作家。個人制作とは思えないクオリティの短編アニメ「ほしのこえ」で注目を集める。以後,「雲のむこう、約束の場所」「秒速5センチメートル」「星を追う子ども」など,精力的に作品を発表し続けている。

4Gamer:
 なるほど。その新海作品も,クオリティのためには商業化して人手を増やさざるを得なかったわけですし。つくり演出によるノベルゲーム作品をもっと観たいところですが,そう簡単ではなさそうですね……。では演出とは少し違った切り口で,選択肢についてはいかがでしょうか。ルート分岐もボイスもないというのは,昨今の流行からは少し外れた選択だった気がするのですが。

奈須氏:
 選択肢については,やっぱりちょっとは不安はありました。それでも,ここまで物語と空気感に特化した作品なら,それを徹底的に味わってほしかったので分岐は廃しました。
 ゲーム的な要素を求めるあまり,「まほよ」という箱庭のデザインを損なうくらいなら外すべきだろうと。一方ではゲームとして,紙の本にできない電子的な遊びを入れたかった。具体的には,アーカイブに出てくる本棚――あれは青子の本棚なんですが,徐々に埋まっていくというのは紙媒体ではできない遊びです。

アーカイブより,青子の本棚

膜拜殿下 发表于 2012-5-19 10:09:28



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4Gamer:
 ルートの分岐は,始めから考えていなかったということですか。

奈須氏:
 いや,最初はあったんですよ。好感度が変わるような選択肢は草十郎の受け答えに,運命そのものを変えてしまうような行動的選択肢は青子にそれぞれ選ばせる,という感じで。それがなぜかはプレイし終わった人なら分かると思いますが。

4Gamer:
 以前,虚淵 玄さんにお話をうかがったとき,「選択肢がないほうが書きやすい」「自分は分岐のある物語には向かない」とおっしゃっていたんですが,奈須さん的にはいかがですか?

奈須氏:
 選択肢の存在を否定しているわけでは,もちろんないんです。例えばFateだったら,選択肢があることで一歩間違えば死んでしまうという世界や,変えられる運命を表現できた。だから選択肢がゲームの中で意義のあるものになっているのなら全然OKだと思います。たまたま今回「まほよ」でやりたいこととそぐわなかったというだけで。


「魔法使いの夜」,そしてこれから
4Gamer:
 では最後に,今後のTYPE-MOONさんの予定についてお聞かせ願えればと思います。とくに「まほよ」の今後については,気になっているファンも多いと思うのですが……。

つくり氏:
 どうやら噂によると,2とか3とかがあるらしいですね。

奈須氏:
 そ,そういう企画書もありますね! ……いや,ほんと申し訳ない。「まほよ」はもちろんこれだけで話として区切りがついているのですが,あの街と三人をメインにした物語はまだ続きがある。「十角館の殺人」の後の「水車館の殺人」みたいな。たぶん全3部作ぐらい。最後まで語れば青子や草十郎,有珠の行く末がはっきり分かります。……さすがにプレイヤーさんをこれ以上お待たせするのは避けたいので,発表する時は2部と3部の間は短くしたい。2部になると本格的な話がはじまってしまうので。

4Gamer:
 おお,続編があるんですね!

奈須氏:
 続きはあります。もちろん今回の第1部だけでもひとつのジュブナイル作品として完結していますが,中には「?」と首をかしげる部分もある。最低限のヒントは散りばめているので,読み手は感覚的に「こういう事だろう」と理解していると思うのですが,そのあたりの解答を語る時こそ最高のカタルシスが訪れるでしょうし。……そこはやはり,第3部を待っていてほしい,と言うしかない。

4Gamer:
 となると,いつ頃なのかというのが気になってしまうわけですが……。

奈須氏:
 今回時間がかかってしまった演出部分に関しては,どうやれば効率がいいのかが見えましたので,時間はかなり短縮できると思います。なので監督であるつくりものじの負担が減るような体制で臨めるはずです。

こやま氏:
 振り返ってみると,今回の制作は無駄な部分も多かったですから。素材の作り方も試行錯誤の繰り返しでしたし。最初から方**が確立していて,ゴールも見えている今なら,もっと効率的に作れるはずです。

4Gamer:
 ということは,また何年も悶々と過ごす……なんてことにはならないと?

つくり氏:
 シナリオさえあれば,自分は明日からでも作業するんですけどねえ(チラッ)。

奈須氏:
 誰か俺のクローン作ってくれ。「まほよ」が発売するまで止めていた案件が,雪崩のようにだな……。

4Gamer:
 真面目な話,今回以上のクオリティが望めるというのなら,みんなあと1年,いや2年くらいは余裕で待てる……ハズです。

奈須氏:
 ありがとうございます! 僕は今,人間の温かさに触れました!

つくり氏:
 いや,待てるわけないだろ。

奈須氏:
 ものじぃーぃぃい! ……いや,でも本当にすいません。クオリティをさらに上げつつ,最高の物語を届けられるように頑張ります。本当に,期待して待ってもらえてるうちが華なので。

4Gamer:
 続編があるということで,どうしても気になってしまうのですが,結局のところ橙子ではなく青子が蒼崎の後継者に選ばれた理由というのは,作中では明確に語られていませんよね? これは今後のお楽しみ,ということなんでしょうか。


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奈須氏:
 ヒントは散りばめてますから,勘のいい人は気付くと思いますけど。青子の魔術回路の構造がヒントです。橙子の魔術回路は業界屈指のものだけど,蒼崎の第五魔法にはそんなもの必要なかった。むしろ青子の単純さこそもっとも適している,みたいな。

4Gamer:
 第五魔法そのものについても,まだまだ秘密が隠されてそうですよね。

奈須氏:
 きっと皆さん,そこが気になってると思うんですけど……すいません,それが分かるのはもうちょっと後なんです。冒頭でもお話しした「進む文明」というテーマにも絡んでくるので……。

4Gamer:
 森を出て文明に触れることで堕落していく草十郎と,それを見守る青子,という図式でしょうか。

奈須氏:
 作中でも婉曲的に語っていますが,有珠は中世の文明の代表で,青子は消費文明の代表です。青子がどうして“最新の”魔法使いなのか,その答えも第五の中にあります。

4Gamer:
 あー……なるほど。分かりました,今後を楽しみにしたいと思います(笑)。では「まほよ」以外についてはいかがですか。

奈須氏:
 TYPE-MOONで動いてる企画でいうと,まず第一に先日延期が発表されてしまった「フェイト/エクストラ CCC」があります。延期は本当にすいません! ですが,プレイしてくれた人が「ニッチなゲームもいいじゃないか!」と思ってくれるくらいに,濃厚な作品となるよう頑張っているので期待してください。
 それからまだ詳細は話せないんですが,みなさん待っていてくださる月姫のリメイクも並行して進んでます。こちらに関しても楽しみにしてもらえればと。

4Gamer:
 あの,個人的な興味で申し訳ないのですが,「DDD」の方は……。

奈須氏:
 うぐぐ(汗)。……待っていただいている読者の皆さんには,言葉もないほど感謝しています。あれもゴールは見えてるので,「まほよ」が終わったら……。

4Gamer:
 分かりました(笑)。では締めの言葉として,こやまさんとつくりさんからも,今後の活動への意気込みなどをいただけるでしょうか。

こやま氏:
 はい。自分が初めて原画を担当させていただいたのが「まほよ」なので,やっぱり作品に対して格別の思い入れがあります。なので,2部と3部をしっかり作って,綺麗にケリをつけたいですね。

つくり氏:
 自分は外からの評価も当然気になりますが,それとは別に,自分の納得するところまで持っていきたい人間なんだということが今回で分かったので。「まほよ」に関しては第1部をああいった形で作ってしまった以上,続編を責任もって最後まで仕上げたいと思います。制作工程も見直して,なるべく早くお届けしたいと。

4Gamer:
 第1部をプレイさせていただいて,シナリオももちろんですが,ノベルゲームの次のステージを見せられた思いです。ジャンル全体の底上げが,続く作品でも行われることに期待したいと思います。本日はありがとうございました。



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 本インタビューは「魔法使いの夜」の発売に合わせて企画されたものだが,本作の魅力をは勿論,TYPE-MOONというチームそのものが持つ熱気を,改めて感じさせてくれるものとなった。その意味ではTYPE-MOON作品を長年追い続けてきたファンはもちろん,(アニメなどのメディアミックスではなく)本作で初めてその原典に触れたという人にも楽しんでもらえる内容になったのではないだろうか。

 TYPE-MOONが活動を開始してから,すでに十年以上。月姫から始まり,Fate~魔法使いの夜といったノベルゲーム作品以外にも,アニメやコミック,そのほか各種スピンアウトなど,さまざまな関連作品が展開されている。その広がりはもはやTYPE-MOONという枠さえ超えて,拡大を続けている。
 新しくTYPE-MOON作品に触れようと考えている人からは,しばしば「どれから始めればいいのか分からない」という声を聴くことがある。その答えはもちろん幾通りもあるのだが,筆者としてはぜひこの「まほよ」をオススメしたい。本作は月姫,空の境界,Fateといった奈須きのこワールドの根底をなす作品でもあり,そして最新の物語なのだから。

 冒頭でも触れたとおり,公式サイトの「SPECIAL」の項目からは,本作の体験版もダウンロードでき,また公式通販パンフレットも公開されている(PDF)。ここまで読みすすめてしまったのに,未だ本作を未プレイ(あるいは積んでる)という人は,この機会にぜひ体験してみてほしい。

 さまざまな方向に展開し,拡張を続けるTYPE-MOONと奈須きのこワールド。それが時代の最先端を駆け抜け続ける物である限り,今後もその活動からは目が離せない。

――2012年4月20日収録


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「魔法使いの夜」公式サイト


■■坂上秋成(ライター)■■
1984生まれ。文芸批評家。純文学,ノベルゲーム,ライトノベルを中心に批評を執筆。主な批評に「捏造の技法」(「wasebunU-30」),「涼宮ハルヒの失恋」(「ユリイカ」2011年7月臨時増刊号「涼宮ハルヒのユリイカ!」),「『浄化の物語」』を願いながら」(「ユリイカ」2011年1月臨時増刊号「村上春樹」)など。ミニコミ誌「BLACK PAST」責任編集を務め,2011年にはノベルゲーム特集である「ビジュアルノベルの星霜圏」を作成。





ss644754461 发表于 2012-5-19 11:16:52

下了还没玩呢,听说没有选项的说,终于不用再体验53种死法了

寿ぁ寿 发表于 2012-5-19 15:28:57

**大篇幅的日文我傻了。。。。

AV酱 发表于 2012-5-19 18:03:48

看来可以回帖了{:H5_02:}
我来灌水的{:H5_02:}

三厘米の绝望 发表于 2012-5-19 19:03:27

最近正好没时间打gal等23出了一起玩吧。。

tz253502 发表于 2012-5-21 14:21:44

{:H5_11:}日文学习不到家,博库表示无念想

LO~珊珊~VE 发表于 2012-5-21 15:25:53

不通日文啊
只会五十音。。

sznszn 发表于 2012-5-22 08:58:18

太长了,还这么多日文…

发表于 2012-5-22 18:01:40

iyou_x 发表于 2012-5-22 18:11:08

不可能有人看的完吧。。。。{:H5_04:}

A4酱 发表于 2012-5-24 13:28:37

完全看不懂的说{:H5_07:}

tls003 发表于 2012-5-25 08:36:02

没搞懂什么意思

坂上智代 发表于 2012-5-25 22:09:06

这跳票史上传奇...
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