TYPE-MOONの原点を辿る「魔法使いの夜」インタビュー。奈須きのこ&こやまひろかず&つくりものじ氏の3名に聞く,ノベルゲームの未来と可能性
奈须氏:大约是全三部作。说到最后的话就会清楚地明白青子、草十郎和有珠的将来。 ……因为不想让玩家再等下去了,希望发表时第2部和第3部的空档能短一些。因为第2部会开始正式的故事。
奈须氏:关于今次花了很多时间的演出部分,因为已经找到了提升效率的方法,我想时间能够做到相当的缩短。因此应该会以能减少监督つくりものじ负担的体制来应付。
4Gamer:虽然有续编这点令人很在意,但作中到最后都没有明确提及选上青子而不是橙子作为苍崎后继者的理由对吧? 这就是作品以后的乐趣吗?
奈须氏:提示已经写出来了,我想敏锐的人应该会察觉到。青子魔术回路的构造就是提示。橙子的魔术回路虽然是业界里屈指可数,但是苍崎的第五魔法不需要那样的东西。反倒是青子的单纯性才是最适合的感觉。
4Gamer:关于第五魔法本身,似乎还隐藏着秘密呢。
奈须氏:我想大家一定都会对此很在意……不过很抱歉,要知道它还得再等一下。会牵涉到开始时也讲过的「前进的文明」这个主题……。
奈须氏:作中也婉转地提及过,有珠是中世文明的代表,而青子是消费文明的代表。青子为什么是“最新的”魔法使,它的答案也在第五之中。
以下为原文:
※インタビュー中には,本編についてのネタバレがあります。未プレイの方は,本編を終えた後に読まれる事をオススメします。 | | | 奈須きのこ氏(シナリオ担当) | こやまひろかず氏(原画・グラフィックス担当) | つくりものじ氏(スクリプト・演出担当) |
2012年4月12日,自社ブランド新作としては8年ぶりとなるTYPE-MOONのノベルゲーム「魔法使いの夜」が発売された。本作は奈須きのこ氏による未発表小説をノベルゲームとして再構成したもので,「月姫」「空の境界」「Fate/stay night」といったTYPE-MOONワールドの原点となる作品である。
本作の舞台となるのは1980年代後半の十一区。バブル景気を迎え発展していく町の中で,坂の上に住む二人の魔女――蒼崎青子と久遠寺有珠は,山奥からやってきた少年,静希草十郎と出会う。価値観も生きる世界も,すべてが異なる三人。本来交わることがないはずの彼らは,とある事件をきっかけに久遠寺邸で共同生活を始めることになり,物語は回り始める――。
「きのこ節」を織り交ぜながらも柔らかい筆致で綴られた奈須きのこ氏のテキストに,戦闘シーンのみならず日常の重要さにもこだわり抜いたこやまひろかず氏のグラフィックス,ノベルゲームというジャンルの可能性を大きく切り拓くつくりものじ氏の圧倒的な演出を加え,まさに青春のきらめきを切り取るさまざまな挑戦が行われている本作。その一端は,TYPE-MOONの公式サイトや,無料配布されている体験版をプレイするだけでも感じ取れるはず。
このほか,音楽にはこれまでTYPE-MOON作品の音楽を数多くてがけてきたKATE氏に加えて作曲家の深澤秀行氏が参加,ED曲である「星が瞬くこんな夜に」をsupercellが担当している。
本インタビューでは,この豪華メンバーによって作られた本作の魅力を,さらに深く知るために,シナリオの奈須きのこ氏,原画のこやまひろかず氏,スクリプトのつくりものじ氏にお話を伺っている。
「魔法使いの夜」における世界観やグラフィックス,キャラクターへの愛情,演出における徹底したこだわりを知ることで,また新たな風景が見えてくるはず。“最新の魔法使い”の産みの親達が,一体どのような思いで本作を作り上げたのか。これまで語られることのなかった“魔法”の秘密が,今,明かされる。
「魔法使いの夜」が目指した世界と空気
4Gamer:
発売されたばかりの「魔法使いの夜」(以下,まほよ),さっそくプレイさせていただきました。今日はその魅力についてお話しを伺っていきたいと思うのですが,あらためて本作がどんなタイトルなのか,というところからお聞きしたいと思います。まず……原作小説があるんですよね。
奈須きのこ氏(以下,奈須氏):
そうですね。ずいぶん昔に書いた小説が元になっています。といっても少部数の同人誌なので,本の形では世の中に3冊しか存在してないですけど。
4Gamer:
小説版は「月姫」「空の境界」「Fate/stay night」(以下,Fate) など,後の奈須きのこワールドの原点となった作品だとお聞きしています。「月姫」の主人公である遠野志貴にとっての「先生」であり,最強の“魔法使い”の一人でもある蒼崎青子の活躍を描いたものということで,ファンとっては注目の作品です。
奈須氏:
青子とは長い付き合いになりました。昔からブレない娘です(笑)。リメイクとはいっても自分の中ではずっと変わっていないキャラクターなので,それを引っ張り出してきただけなんですけど。
4Gamer:
では今回ノベルゲームとしてリメイクするにあたっては,シナリオ面での苦労はあまりなかったですか?
奈須氏:
初めの選択肢としては,元の小説どおりに1980年代を舞台とするか,あるいは2010年の物語として置き換えるかで,迷いはありました。制作を開始して,こやまひろかずの絵と深澤秀行さんの音楽,そしてつくりものじの演出といった素材が集まってきた段階で,これは時代に左右されないものとして完成させられる,という確信が持てました。
4Gamer:
プレイした感想としては,何よりもまず,ものすごく美しい作品だという印象でした。イギリスの伝承童謡であるマザーグースからの引用や,BGMにリストの「愛の夢」やエリック・サティの「ジムノペディ」といったクラシック曲が採用されていることもあって,月姫の遠野家ルートや,空の境界の日常などに近い,とても静かな雰囲気になっていますよね。逆にFateのような作品とは,着地点が異なっているように感じました。
奈須氏:
おっしゃるように,穏やかで美しい世界を創り出したいという気持ちは強かったですね。月姫にしろFateにしろ,これまでのTYPE-MOON作品は「今の時代にはこれだ!」という要素をガンガン入れてきた。空の境界のような小説作品ならともかく,TYPE-MOONというチームで作るノベルゲームなら,まずエンターテイメントとして受け入れられるものにしようという気持ちが強かった。
ですが「まほよ」に関しては,今の流行はひとまず置いておき,ひたすらに丁寧なものを作ろうと思ったんです。これまでTYPE-MOONは娯楽としての要素を強く押し出してきたけど,一度ここで工芸品のような,あるいは映画を作るようなイメージでゲームを仕上げてみようと。テキストだけではない,CGだけではない,音楽だけではない,それらをまとめて「ひとつ上のもの」。そういうノベルゲームやアドベンチャーゲームというジャンルそのものの底上げをやってみたい,という気持ちがあったんです。
4Gamer:
工芸品という言葉は,すごくしっくりきます。いわゆる王道のエンターテイメントとは別の場所を目指しているというか。月姫やFateではかなり早い段階で「吸血鬼を倒しに行く」とか「聖杯戦争を終わらせる」といった明確なゴールが見えていましたが,「まほよ」では物語の着地点がすぐには明かされない造りですよね。
奈須氏:
「まほよ」は1980年代のジュブナイルを強く意識しました。でもそれって,今のプレイヤーにとっては,目新しいか退屈かの,どちらかなんですよ。ハリウッドを例にとると分かりやすいですが,あれって5分に1回見せ場を作るような方程式で作られてますよね。単純にエンターテイメントとして優れたものを作るなら,そうやって巻き巻きにしていくべきなんだけど,今回は1980年代という緩やかな時間をベースにした世界を作るという事にこだわりたかった。結果的にそれが穏やかで静かな空気を産み出す事につながったんだと思います。
こやまひろかず氏(以下,こやま氏):
地味ですけど,例えば雨が降っているシーンなんか,気を使ってます。戦闘シーンももちろん気合を入れて描くんですけど,そういうものをより引き立てるためにも,日常シーンは大事にしたかった。TYPE-MOONでグラフィックスを担当する時って,ケレン味重視の絵と写実的な絵にクッキリと分かれるんですよね。「まほよ」の場合は戦闘シーンのケレン味だけでなく,日常シーンの抒情性にもこだわってます。
4Gamer:
オープニングで傘をさして街を歩く青子が,すごく印象的でした。ちなみに舞台となった1980年代後半というと,十一区のバブルの終わりにあたる時代ですよね。奈須さんご自身としては,1980年代についてどんな印象をお持ちなのでしょうか。
奈須氏:
80年代後半は,誰もが「これからどんどん近代化が進んで,世の中が一層よいものになっていく」という夢を持てた時代じゃないですか。それは結局5年後に崩れ去ってしまう幻想なんですけど,それでも当時自分が見ていたキラキラした空気というのは,今でも宝物のように感じられる部分があります。たとえ,あれが大きな間違いであったとしてもね。そうしたことを2010年から振り返って書けるということは幸せですね。
4Gamer:
正確な年数を決めず,1980年代後半という形で幅を持たせたことには理由があるんでしょうか。
奈須氏:
初めははっきりと1987年に設定するつもりだったんです。でも1989年にはベルリンの壁の崩壊がある。そうすると,作中の時間が進むに連れて,その世界的事件に触れざるを得なくなってしまう。そちらに触れるとジュヴナイル伝奇からいつもの伝奇によってしまう。なので1980年代後半という設定しました。
今回18禁要素を避けたのも,それを大事にしたかったからなんです。少年少女が恋を知る以前,人生を決定する前に交差する一瞬を描いた話なので,そこに18禁要素はいらないな,と。
4Gamer:
ああ,なるほど。いや,それでもエロスはものすごく感じるわけですが(笑)。
奈須氏:
それはもう,全部原画を担当したこの人(こやま氏)のせいですから(笑)。
こやま氏:
ええっ,そこ俺のせいなの?
4Gamer:
草十郎はよくあれで理性を失わないなと……いや,話を戻すと,そんな木訥な青年である静希 草十郎と,魔女である青子,久遠寺有珠の3人が,久遠寺邸で共同生活を送るというのが,本作のメインプロットになっています。この3人の距離感というのが,絶妙ですよね。単純なラブロマンスに回収できるものではないし,「こういう関係です」って一言で説明できるものでもない。そんな微妙な関係性が作品の空気を作っている。先ほどジュブナイルというお話がありましたが,まさにそんな青春のきらめきが描かれているように思いました。
奈須氏:
そこが雑居モノの醍醐味です。本来は相容れないはずの3人が,自分の価値観やルールを変えないままに共同生活を続けていくという。でもその中では,もちろん損なわれていくものがあるんです。
例えば草十郎は,山から下りてきた直後,第1章の時点だと,これまでのTYPE-MOON作品に出てきたどの主人公よりも凄い。それが文明に慣れて個人として確立していくことで,どんどん弱くなっていく。「まほよ」のテーマって,基本的に 「都市と森」とか 「進む文明」なんですよ。自然しか知らないままに生きてきた人間が,幸福に近づくことで生き物としては堕落していってしまう。そうやって徐々に変化していく草十郎と,一生変わることのない有珠,そしてどんどん新しいものを取り入れていく青子という3人が,あの洋館では交わっている。あとで誰かが振り返った時に,「そういう奇跡のような時間があったんだ」と思う物語を見せられたら,それはまさしく青春でしょう?
2人の魔女,青子と有珠
4Gamer:
では各キャラクターに焦点を当てて,詳しくお話を伺っていこうと思うのですが,今作ではこやまさんが原画を担当されていますね。これまでのTYPE-MOON作品の表情を残しつつも,新しい魅力を持ったキャラクターになっていると感じました。まずはヒロインからということで,青子と有珠の2人についてお聞きしたいのですが。
奈須氏:
青子はさっきも言いましたが,ブレない娘ですから。ただ草十郎のデザイン変更に伴って,青子のキャラ設定を修正した部分もあるので,ある種の化学反応があって面白かった。
こやま氏:
僕は逆に,おっかなびっくりで出したキャラクターデザインを,生みの親である奈須さんにうまく動かしてもらえたので,安堵した部分の方が大きいです。これで本当に大丈夫なのかな,という不安はずっとあったので。
4Gamer:
ファンにとっては,発売前から思い入れの深いキャラクターですものね。
こやま氏:
それととくに意識したのは,どうにか 年齢ゆえの“スキ”を表情として見せたいということ。「まほよ」の青子は高校生なので,プレイヤーが知っている「先生」としての青子や, のはっちゃけた青子ではない,少女としてのキャラクター性を出していきたいと考えていました。
4Gamer:
表情がころころ変わる青子は,すごく微笑ましかったです。「ああ,この娘が何年かするともっと素敵な女性になって,遠野志貴を助けてくれるんだな」と,不思議な気持ちで眺めることができました。では有珠については?
奈須氏:
デザインレベルで言えば,有珠はとても分かりやすいキャラクターですね。
こやま氏:
そうですね。有珠は武内 崇 ※デザインの原案デザインが最初にあるんですが,まあ彼の好みというのは 金髪ヒロインか,あるいは ショートボブかボブカットくらいの女の子ですから(笑)。
※武内 崇……TYPE-MOON代表兼,イラストレーター。奈須きのこ氏と共に,TYPE-MOONを立ち上げ,月姫からFateまでの原画・キャラクターデザインを担当。本作ではプロデューサーを務める。
奈須&つくりものじ氏(以下,つくり氏):
間違いねぇ!
こやま氏:
だから,そこさえ押さえておけば外さないなと。最初その辺り心持ち取り違えてて,途中で長さを微妙にいじる作業が必要になったり(笑)。
4Gamer:
有珠は一見無表情なキャラクターですけど,遊園地でのバトルの後から,次第に微妙な表情を見せるようになりますよね。当初は草十郎のことをひどく警戒していた有珠が,心を許すにつれて色々な顔を覗かせてくれるというのは,ちょっと感動するものがありました。
こやま氏:
その辺りのギャップは,プレイヤーさんもはっきり感じ取ってくれたようで,好評なのはすごく嬉しいです。無表情系キャラって,1枚のイラストだけなら楽なんですけど,これがゲーム制作の中で表情の差分を作っていくことになると,急激に難度がアップするですよ。
4Gamer:
ああ,分かる気がします。
こやま氏:
それで上手く描けなくて悩んでいた時に,奈須さんから「有珠は過去に捕われて生きていて,篭りがちになっている。精神的には年齢より幼い部分を残している」と言われて。それでつかえがとれたんですよね。実際,彼女は老獪な魔女の顔を持ちながら,人との触れ合いの際,時折,凄く幼い一面を覗かせるじゃないですか。それを理解できたら,後はすんなりと描けるようになりました。
4Gamer:
実は今日2周目をプレイしてきたんですが,2周目をやると,最初の頃の表情でも「あ,こんな顔してたんだ」という発見があって楽しめました。
こやま氏:
「まほよ」は2周目こそが楽しいゲームだと思います。キャラクターの表情だけでなく,テキストの表現や細かい演出も含めて,1周目は何も考えずに楽しんでもらいたいんですけど,2周目はぜひ微妙なこだわりの部分を理解しながら見てもらいたい。そういうコンセプトで作ったところがあります。ただ,それのためには2周目以上のプレイに耐えるだけの内容に仕上げなければならないプレッシャーもありましたけど。
奈須氏:
「まほよ」は本当にシナリオ,グラフィック,演出,音楽といったすべての要素が,ひとつの美しい図形を描いているタイトルなんです。なので,2周目をプレイすることで,そうした要素を楽しんでもらえれば嬉しいです。いや,複数回プレイだからこその楽しみってあるじゃないですか。 とか,3回目,4回目のプレイがどうしてあんなに面白いのか!
こやま氏:
あえて,ノーコメントで(笑)。
4Gamer:
有珠に関しては,これまでのTYPE-MOON作品にいなかった雰囲気のキャラクターですし,表情や喋り方だけでなく設定まで含めて魅力的なヒロインだと思います。彼女は魔術行使の際,詠唱にマザーグースを使いますが,そのイメージも非常に面白いなと。
奈須氏:
TYPE-MOON伝奇における魔術と魔法に関するルールだと,どうしてもメルヘン寄りだったり,童話チックだったりする魔術が扱えなくなってしまうんですけど,それがちょっと悔しかった。なのでひとり例外を残しておこう,という立ち位置が有珠です。彼女は絵本の魔術を使い,ワンダーランドを体現しながらも,世の中が近代化するにつれて消えていってしまう儚い存在です。なので,そもそもがTYPE-MOONの魔術のルールから一歩外れた,特殊な立ち位置にいるキャラクターなんですよ。
久遠寺有珠(くおんじありす)
4Gamer:
なるほど。奈須きのこワールドの原点となった作品だからこそ,成り立つキャラクターだと。
奈須氏:
自分自身の心情を含めてですが,彼女は「まほよ」の世界にしか存在できないキャラクターです。自分のほかの作品で,似たタイプの人物が出てくることも,恐らくないと思います。……例えとして適切かどうか分からないんですが,スターシステムというのがあるじゃないですか。
4Gamer:
手塚治虫作品におけるお茶の水博士のような。キャラクターは一つなのに,作品を超えて違う役割で登場するような,あれでしょうか。
奈須氏:
そう。分かりやすい言い方をすると,例えば青子だったら,彼女にスターシステムを適用するのは抵抗ないんですよ。実際TYPE-MOON作品には,彼女を原点とした同系統のキャラクターが登場していますし。
4Gamer:
月姫の遠野秋葉や,空の境界の黒桐鮮花,Fateの遠坂 凛などですね。
奈須氏:
「勝気なお嬢様的ポジション」ってやつです(笑)。一方,有珠のポジションにほかのキャラクターを置くことはしたくない。自分にとって,どうしても汚しがたい,オンリーワンの立ち位置ですね。……まあ,有珠というキャラクターで語るべき事は「まほよ」ですべてやる,という点もあるのですが。
4Gamer:
マザーグースに関しては,以前から思い入れがあったんでしょうか。
奈須氏:
いや元になっている小説では図書館で2,3調べたくらいで,あそこまでメルヘンメルヘンした感じではなかったんですよ。マザーグースは調べていくと色々と面白くて。例えばでディドルディドルの歌詞が出てくるじゃないですか。あの歌詞が間違ってると思う人がいると思うんですけど,あれも正しいんです。
4Gamer:
というと?
奈須氏:
よく「High」じゃなくて「Hey」だろってツッコまれるんですけど,でも古いディドルは「High」でもある。マザーグースは言葉遊びが強いナンセンスな内容なので,イギリス圏のPTAみたいな,キリスト教のある一派からのお達しで詩の検閲がされてしまった。ナンセンスはいいが,文法の過ちは許さない,と。けど有珠が詠唱に使うんだったら,オリジナルの方じゃなければ嘘でしょう?
4Gamer:
ああ,確かに。ほかにも「不思議の国のアリス」へのオマージュも入っていますが,そちらはいかがですか。
奈須氏:
ルイス・キャロルは厨二病的な感性の先輩じゃないですか。原作を書いてる段階から,一度はアリスをモチーフにしたものを書きたいと思って。その頃はまさかここまでアリスをモチーフにした作品が世の中に溢れるとは思ってなかったけど……。
4Gamer:
アリスやマザーグースを使った作品って名作が多いですよね。「ポーの一族」や「パタリロ」とか。本作でも,有珠が持つ独特の空気が周りのキャラクターと馴染んでいる点が本当に素晴らしかった。あとマザーグースに「暗黒童話」というルビを当てている辺り,奈須きのこ節が感じられて嬉しかったです(笑)。
“山門異界”草十郎。その境遇,うらやむべきか
静希草十郎(しずきそうじゅうろう)4Gamer:
青子と有珠が,奈須きのこワールドを形作る魔術サイドのキャラクターである一方で,本作ではそこに迷い込んでくる異邦人として,男性主人公である草十郎が描かれています。先ほどのお話にも出たように,原作から大きくイメージが変更されたキャラクターとのことですが,彼についてはいかがでしょうか。
こやま氏:
僕は元の小説を読んだ段階で,彼にそこまでワイルドで男臭いイメージを持たなかったんですよね。どちらかというと空の境界の黒桐幹也に近い印象でした。そこで武内さんの原案イラストとの間に食い違いがあったんです。なのでなかなか決定稿に至らなかったキャラクターです。
ただ僕自身は,自分が最初にイメージした草十郎に,これは絶対にいけるはず,という確信があったので,ここは我を通させてもらおうと説得して,今の形になりました。
4Gamer:
キャラクターイラストの変更は,奈須さんのテキストにも影響があったのでしょうか。
こやま氏:
キャラ絵が変わったことで,奈須さんの中の草十郎も,ちょっと変わったみたいです。でも僕にとっては最初に読んだ原作のイメージが今の草十郎なので,むしろ変えてほしくなかったんですね。だから奈須さんがちょっとナヨっとした描写に変えてきた部分は,元のままでいきしょうって僕の方から言ったり。逆に,僕が柔らかい表情を描いた時には,奈須さんの方から,ここはもっとワイルドな感じで,と意見をもらったりしています。
4Gamer:
草十郎が口をバッテン(×)にした可愛らしい表情を浮かべるシーンがありますよね。では,あれはこやま版の草十郎になって生まれた表現なのでしょうか。
奈須氏:
自分はバッテンの顔より,ヘの字口でむくれてる顔がお気に入りです。どちらも初期案にはなかった表情ですね。元々の草十郎は壁のようなイメージの男で,感情を表に出さず,単に「そうか」と言って納得するような人物でした。こやま版は,相手が何か言ってきたら,きちんと返事をする感じ。
4Gamer:
ちょっとズレた返事ではあるけれど。
奈須氏:
そう,本人は大真面目なんだけど,だからこそイラッとする。しかし基本的にもの凄くいい奴なので,何か文句を言ったとしても,結局はそれを言った方が申し訳ない気持ちになってしまう。そういうキャラクター像を目指しました。
こやま氏:
最終的には新旧の草十郎が融合していきましたよね。
奈須氏:
そこはシナリオライターの腕の見せ所ですから。きっちりお仕事させていただきました。
4Gamer:
草十郎が青子に向けて言った,「有るものは有る」というセリフが凄く印象に残っているんです。理屈で考える前に,まず現実を受け入れてしまうという,かなり特殊な精神構造をしたキャラですよね。
奈須氏:
前提として,彼は目で見たものを否定しないし疑わないんです。ただそれって,自分というものがないからでもあるわけで。普通は人間である以上,見るものすべてに主観が入ってしまって,見たいもの/見たくないものを選別しますよね。でも草十郎は,そういう物事の価値や善悪を判断しないしできない。
4Gamer:
そもそも,判断するために必要な基準を持っていない。
奈須氏:
その意味で,山から下りてきたばかりの彼は,まだ人間にさえなれていない。時間が経つにつれて,彼もまたどんどん人間社会に適応せざるを得なくなっていくわけですが,同居人達はそれに対してそれぞれ異なる想いを持ってます。根底にある彼の思想だけは永遠に変わらないでいてほしいと思っているのが有珠,変わっていくんだろうけど,そこに危うさを感じているのが青子,という感じです。
4Gamer:
クライマックスのシーンで,草十郎がもの凄く冷たい眼をするシーンがあるじゃないですか。あそこで,それまでのぽやんとした草十郎のイメージが,切り替わるように思うんです。
こやま氏:
そうですね。あそこで「あれ,何か違うぞ」って,プレイヤーには感じてほしかった。僕はギャップ好きな人間なので「優男に見えて実は……」という草十郎のキャラを,皆にも愛してもらいたいです。
奈須氏:
ははは。無力と思われてた主人公が,実は強かったなんてのは,もうライトノベル業界が15年間育んできた黄金のテンプレじゃないですか。原作が書かれた当時ならまだ良かったですけど……。
4Gamer:
まあ,確かに(笑)。
奈須氏:
2012年の今それやるのは,少なからず不安もあったんです。なのでそこは極力自然な形で強さを表現して,古くさくならないように気を使った。例えば草十郎の眼が突然ピカーンと光ったりしたら,それはちょっと萎えるじゃないですか。そうではなく,それまで積み上げてきた「まほよ」の空気感を壊さない形で,静かに草十郎の異常さを見せたかった。その意味で,あそこの草十郎のグラフィックスは素晴らしかった。
4Gamer:
つくりさんはいかがですか,草十郎については。
つくり氏:
彼は……かわいそうな奴ですよね。
(一同爆笑)
つくり氏:
だってそれまで平穏に暮らしていたのに,いきなりあんな魔女の館に放り込まれてしまうわけでしょう? 彼はしっかりしているからまだいいんですけど,「俺がこんな所に投げ出されたら2時間持たんぞ……」という。あんな処遇なのに良く頑張ってますよ。多分「まほよ」における実質的なヒロインは彼ですね。
奈須氏:
そ,そうか。あの境遇をかわいそうだと思えない時点で我々はダメなのか……。
つくり氏:
けがれてしまった大人ですよ。ダメダメですね。
4Gamer:
プレイヤーとしても,あの状況をうらやむべきかどうか迷います。MM二人との生活をうらやましく思う半面,現実的に考えると命が幾つあっても足りない。
奈須氏:
青子を彼女にするのは,やめておいた方がいいと思いますよ。奴と恋人になると,毎日が辛いです。不真面目に生きていると,怒られちゃいますから。逆に有珠は,人間的には怖いところもあるけれど,デレちゃえば優しいはずなのでオススメ。これがTYPE-MOONのスタッフ内で議論した結論です(笑)。
こやま氏:
でも青子の支持率も,最近上がってきたみたいだけど。引っ張っていってもらえるし,それはそれでアリかな? という。でも僕はダメ人間なので,それでも有珠の方がいいと思うけど……。
4Gamer:
Fateでも,凛が「早く一人前の魔術師になりなさい!」って,士郎にハッパをかけてましたが,TYPE-MOON作品の女性キャラは,男側もレベルを上げていかないと捨てられそうなおっかなさがありますよね。
奈須氏:
それはツラいですわな……ただ青子の場合は,その人間ができないことを,強引にやらせようとはしない。あくまでできる範囲で死力を尽くせという。なのでダメ人間が彼女と一緒に暮らすと,真人間になれるはずですよ。
4Gamer:
ではメインの3人を除いた,そのほかのキャラクターはいかがですか。とくにお三方の印象に残っているキャラクターとか。
こやま氏:
僕は橙子さんの表情が,とにかく描いていて楽しかったですね。
4Gamer:
橙子さんは,空の境界と比べて,かなりアクティブに動くキャラクターになりましたね。
こやま氏:
だいぶ浮き沈みの激しい人になっていて,それが表情にも表れているように思います。その浮き沈みというのも,本人が精神的に追い詰められてテンパっているからこそのものなんですが,描いている方としては楽しかった(笑)。
蒼崎橙子(あおざきとうこ)
奈須氏:
まったく,この人は不幸萌えなんだから(笑)。自分的には言うまでもなく金鹿ですが。
4Gamer:
今のところ本筋には絡まないながらも,存在感の大きいキャラクターですね。
奈須氏:
金鹿はそもそも原作には登場しないキャラクターでした。しかし,制作段階で我々は気付いてしまったんです。「このゲームには萌えキャラがいない」と!
4Gamer:
な,なるほど。
奈須氏:
なので,とにかく可愛いことがそのまま存在意義になっているようなキャラを,と金鹿は望まれました。しかし,結果的に性格がツンツンした,たくましい女の子が生まれてしまって。奈須きのこの限界を感じさせてくれました……。で,でもデザイン的には我々のアイドルですよ。
こやま氏:
紆余曲折はありましたけど,デレのないツンデレということで,コンセプトが分かりやすかった。だから非常に描きやすいキャラクターでした。
4Gamer:
これはどのキャラクターについてもなんですが,とにかくキャラクターの表情が豊かで,しかも本当に微妙な描き分けがされているのが印象的でした。勘違いだったら申し訳ないんですが,13章で青子と草十郎が出かけるのを見送る時の有珠の表情って,あのシーンでしか使われていないですよね。
こやま氏:
おお,よく気付きましたね。あれは奈須さんの要望があって,専用の絵を描いたんですよ。
奈須氏:
あの場面ではどうしても専用絵が欲しかったんです。「1クリックで消えてしまうけど,描いてくれ!」という絵が,「まほよ」にはほかにも沢山ある。
4Gamer:
月姫でも,1クリックで消えていく虎のイラストがありましたね。
奈須氏:
ただ,月姫のあれは「これまで出てきてないイラストだ」ということが,すぐに分かるじゃないですか。「まほよ」の場合,とくに有珠の表情なんかは,よく観察していないと分からないレベルです。けれど妥協なしで作っていくにあたっては,どうしてもこだわりたかった部分だった。
こやま氏:
つくりさんがスクリプトを組み始めてからも,「この表情だと合わないから,専用で絵を追加しよう」というのがどんどん発生していったんです。後追いでの表情追加は,かなり多かった。
4Gamer:
キャラクターの表情や動きに関しては,こやまさんとつくりさんが連動して動いていったということですか。
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